前作、「吉原御免状」の続編。
主人公・松永誠一郎は、徳川幕府によって政権を剥奪された後水尾天皇の隠し子だった、という設定だ。生後、剣豪宮本武蔵に育てられ、その後巡り巡って色里吉原の惣名主になった。御免状奪取を試みる幕府の権力者と、御免状を守る吉原者との争いが物語の中心である。
ではここで言う御免状とは一体何か。
幕府を築いた徳川家康は実は影武者で、その影武者は、天皇意外の権力は一切認めないという自由人だった。そんな影武者が同朋に色里経営を許可した。それを文書で証明したのが色里御免状というわけだ。
前作、「吉原御免状」を読んだのがおよそ10年前だった。どこまで内容を覚えているかが不安だったが、前作を知らなくても十分に愉しめる作品だ。また、主人公の記憶という形で時としてフラッシュバックのように前作の一部が出てくるので、読んでいてありがたかった。個人的な好みにより剣豪小説はあまり読まないが、それでもなおこれほどまでに読みふけってしまうのは、それはただ単に私が隆慶一郎の一ファンだから、ということだけではないはずだ。
学生時代に夢中で読んだ隆慶一郎の本も、いよいよこれが私にとって最後の一冊となってしまった。隆慶一郎の小説を読む時、史実が云々という話はどうでも良くなってしまう。小説家が書いた小説が小説として面白ければ、読者にとってそれ以上のものはない。
以下、もっとも印象に残ったところを本文より一部抜粋。
「世の中の柵を背負って、七転八倒の思いの中で、剣を抜く。それが本物の剣だというんだ。剣理を極めるだけの剣なんて、金輪際、本物じゃあねえ」中略。「嘘は云わないよ。いままでの誠さんは強すぎた。もう少し弱くならなけりゃ、本物じゃない。これはもう確かなことだ。」
読了:2000年 11月