花と火の帝/隆慶一郎

駕輿丁として禁裏勤めをする八瀬村の一族。彼らは八瀬童子と呼ばれ、表向きには天皇の輿をかつぐ役割を担い、裏では天皇方の諜報活動も行っていたというのが本書の設定だ。その八瀬村から5歳の少年・岩介が突然姿を消した。

幼馴染の「とら」と雪山で遊んでいる時に並外れた体術の持ち主に遭遇し、その術を学ぶために八瀬童子の故郷(朝鮮)に渡ったのだ。その体術の持ち主は自らを天狗と称し、「鬼道」といわれる不思議な術を身に付けていた。 続きを読む

柳生非情剣/隆慶一郎

チャンバラ小説。もともとチャンバラ小説はあまり読まないが、隆慶一郎が書いた本ならそれなりに面白いだろうと思い読んでみた。いくつかの章にストーリーが分かれており、その中からとくに印象に残ったものをいくつかを紹介したい。

子供にいじめられる不敏な呆け老人、「あほの太平」が登場する章、「柳生の鬼」では、その「あほの太平」の実体に驚かされ、また、足の自由を無くした柳生新次郎のやりきれない心情を描いた章、「跛行の剣」を読んだ時には、心が掻き毟られた。 続きを読む

杖下に死す/北方謙三

豪商や米商人に対して打ち毀しを行った事件として知られている大塩平八郎の乱。養子の格之助と主人公・光武利之の交流を軸に、決起に至るまでの世情が描かれている。

度重なる飢饉や米の売り惜しみ等で苦しむ市民を救わんと立ち上がった大塩平八郎。政治のあり方を世に問い掛ける意味で一石を投じたように思えたが、事件としての、あるいは平八郎自身のスケールはそれほどでもなかったようだ。しかし、本書で注目すべきは何よりも登場人物たちの男振りだ。 続きを読む

冬の鷹/吉村昭

オランダの医学書・「ターヘルアナトミア」の和訳を手がけた前野良沢を描いた小説。

医業を生業とする良沢がオランダ語に興味を持ち、47歳で長崎に遊学。しかし、初めて目にするオランダ書の横文字に圧倒され途方に暮れた。後に江戸へ戻った良沢は、杉田玄白らと共に処刑場へ足を運び、死体解剖を見学することで、ターヘルアナトミアに示された人体図の正確さに驚愕した。そして良沢らは和訳に強い使命感を抱いた。 続きを読む