ニコライ遭難/吉村昭

ロシア皇太子ニコライが来日訪問中に襲われた。明治日本を戦慄させた大津事件を描いた小説。

ニコライ来日に際し明治政府は国をあげて彼をもてなしていた。長崎入港後,ニコライ一行は日露両国の厳重な警備のなかで各地を訪問。

ニコライは様々な形で日本文化に触れた。人力車に乗り街を遊覧し、高価な民芸品を買い求め、自分の腕に刺青を入れさえした。ニコライは見るもの全てに歓喜の色を示し、その様子は読んでいて微笑ましい。そして一行は京都へ向かう。

が、街道を警備する巡査・津田三蔵が突然ニコライを斬り付けた。ニコライは重傷には至らなかったものの、明治政府は焦りに焦った。日露関係が悪化し、最悪の場合は戦争もありうると。国力が劣る日本は、ロシアを怒らせまいとあらゆる手を考慮した。

そして、ニコライを斬り付けた津田三蔵の処罰を巡る裁判が展開された。

原告は、異国の皇太子を襲ったことは天皇を襲ったことと同じであるとし、「皇室罪」を主張。津田を死刑にすることでロシア側の感情をなだめようとした。

一方被告側の弁護人は、「皇室罪」は本来日本の皇室にのみ適用されるものであり、あくまで「一般人に対する殺人未遂」であると主張。解釈を曲げることは国と法の威厳を失墜させるものであるとし、近代法治国家としての日本を先進国にアピールしようとした。

国中が注目した大津事件を巡る裁判。そして判決は下された。ロシア側の反応はいかに。

近代国家への道を歩み始めた明治日本だったが,その前途は多難に満ちていたようだ。

読了: 2000年 5月