風の呪殺陣/隆慶一郎

信長による比叡山焼き討ちが一人の修行僧の運命を変えた。

叡山の寺を焼かれたことにより修行の道を断たれた昇運。仏敵信長を呪い殺さんと呪殺行に入った。弱冠十八歳。過酷な青春を送る昇運に悲壮感が漂う。これを初めて読んだ時、私もまた10代後半で、おこがましくも主人公に感情移入してしまった。 続きを読む

親鸞/吉川英治

鎌倉時代初頭、浄土真宗を開いた親鸞の生涯を描いた小説。

源氏の血を引く藤家に生まれた十八公磨(まつまろ – 後の親鸞)。しかし、世は平家の時代。不遇の環境に育った十八公磨だったが、作品中の彼からは幼子らしさを見せる一方、気高く、神童の気配をも感じさせる。後に剃髪した十八公磨は法名を範宴とし、叡山に入った。それでまだ九歳だ。 続きを読む

日蓮/山岡荘八

人の世の悲しさを知り、また神仏に対する疑問を抱いた善日丸(後の日蓮)だったが、やがて発心。人が救われる道を切に求め清澄山に入山。

入山後、様々な煩悩に苦しみながらも自らに厳しく鞭打ち、経文を完璧に近い形で読破した。そんな日蓮が見た当時の日本仏教は様々な宗派に分かれていたが、いずれも日蓮が求め、また真実と認めたものは存在しなかった。後の日蓮曰く、分派は日本仏教の歪みであり、そこに釈尊の真意は存在しない。 続きを読む

婆娑羅太平記/黒須紀一郎

悪党でも、武家でもなく、婆娑羅でもない。本書の主人公は妙適清浄を標榜する真言立川流の僧・文観だ。邪教とされていた姓の宗教だが、男女交合の恍惚感が菩薩への道、という宗旨の根底には貴賎貧富の差を真っ向から否定する平等思想があった。

世にはこびる差別を崩壊させる事が大衆を救う道。そう信じていた文観はやがて武器商人・石念や悪党・楠木一族と出会う。被支配層の独立繁栄を願う彼らと文観の思想は底通し、お互いが協力体制を築いた。作品の後半、彼らが関東の幕府軍を手玉に取った千早赤阪村での活躍が見られる。僅かな軍勢で大軍を破る様子は、この時代の出来事の一つの華であるかのようだ。 続きを読む

安国寺恵瓊―毛利の参謀といわれた智僧/三宅孝太郎

「信長の代、五年三年は持ちたるべく候。(中略)さ候てのち、高ころびにあをのけにころばれ候ずると見え申し候。藤吉郎、さりとてはの者にて候」

信長の絶頂期にこれだけの予測をして見せたのが本書の主人公、安国寺恵瓊だ。本能寺の変はその約10年後に起こり、また藤吉郎(後の秀吉)はその後に天下人となった。 続きを読む