南北朝の梟/童門冬ニ

南北朝時代、南朝の後醍醐天皇の側近として足利尊氏の北朝と戦った北畠親房を描いた小説。タイトルの「梟」とは、この時代に暗躍した主人公、親房を隠喩したものらしい。

足利尊氏(北朝)に京を追い出された後醍醐天皇(南朝)は吉野へ脱出。天皇の命を受けた親房は伊勢地方に勢力を築き上げ、南朝復活の機会を覗った。が、様々な工作や戦闘をもってしても北朝(足利方)を倒すには至らなかった。足利方で私の目を惹いたのが高一族だ。 続きを読む

婆娑羅太平記/黒須紀一郎

悪党でも、武家でもなく、婆娑羅でもない。本書の主人公は妙適清浄を標榜する真言立川流の僧・文観だ。邪教とされていた姓の宗教だが、男女交合の恍惚感が菩薩への道、という宗旨の根底には貴賎貧富の差を真っ向から否定する平等思想があった。

世にはこびる差別を崩壊させる事が大衆を救う道。そう信じていた文観はやがて武器商人・石念や悪党・楠木一族と出会う。被支配層の独立繁栄を願う彼らと文観の思想は底通し、お互いが協力体制を築いた。作品の後半、彼らが関東の幕府軍を手玉に取った千早赤阪村での活躍が見られる。僅かな軍勢で大軍を破る様子は、この時代の出来事の一つの華であるかのようだ。 続きを読む

義経/司馬遼太郎

戦に長けた源義経と政治感覚に長けた源頼朝。この二人の対比が鮮やかな作品だ。まるでタイプの違う二人だが、共に生まれた時代は平家の全盛。肩身の狭い思いで若年期を送っていたが、やがて二人は歴史の表舞台に登場する。

従来の戦の常識を覆し、重要な局面で勝利を得続けた義経。平家を滅ぼし亡父の敵討ちに命を賭ける。義経の原動力にはそれが先立っていた。そしてもうひとつ。頼朝に勝利を喜んでもらうことだった。 続きを読む

箱根の坂/司馬遼太郎

室町幕府の一官僚から後に関東の支配者となった北条早雲の生涯を描いた小説。

伊勢新九郎(後の早雲)が身を置く伊勢家は名門だった。が、新九郎は鞍作りに日々を費やし、無難に人生を送ることだけを望んでいた。そのせいか、伊勢家での役職も無かった。しかし、諸国を旅し世の中の動きに敏感になった新九郎は、時代が大きく変わることを確信した。 続きを読む