風の呪殺陣/隆慶一郎

信長による比叡山焼き討ちが一人の修行僧の運命を変えた。

叡山の寺を焼かれたことにより修行の道を断たれた昇運。仏敵信長を呪い殺さんと呪殺行に入った。弱冠十八歳。過酷な青春を送る昇運に悲壮感が漂う。これを初めて読んだ時、私もまた10代後半で、おこがましくも主人公に感情移入してしまった。 続きを読む

水の城 いまだ落城せず/風野真知雄

秀吉による北条討伐も大詰め、北条方の支城が次々と落城する中で唯一不落を通した忍城。大軍で押し寄せる石田三成軍と寡兵で立ち向かう成田長親が繰り広げる攻防戦が描かれた作品。

蓮沼と巨木に囲まれた天然の要塞。地の利に恵まれていたようだが、持ち堪えられた要因はそれだけではない。城代・長親の鷹揚とした性格が周囲に与えた影響も大きかったようだ。籠城が決定した際、小田原に参戦する城主・成田氏長の城代となった長親だが、誰かに恨まれることはないが決して頼られるわけでもない凡庸な男の登場に読者ですら不安を覚える。 続きを読む

夏草の賦/司馬遼太郎

土佐の一勢力を率いる長曾我部元親。土佐一国、四国、やがては中央を目指す過程での彼の盛衰が描かれている。

菜々という、岐阜城下でも美貌で評判の娘が元親から縁談を持ちかけられるところから物語が始まる。土佐に関する情報がほとんど無い状態で、菜々は周囲の心配をよそに快諾。当時の女性としては異様な冒険心だったようだ。 続きを読む

明智光秀/早乙女貢

当時としては珍しい文武両道の人物であったようだ。信長自身が軍師を必要としていなかったようだが、光秀は確かに知的戦略を得意としていたようだ。

明智光秀=南光坊天海説を地でいく小説。小説のテーマとしては夢があって最高に面白く、実際にこの小説は面白い。しかし、本能寺の変の後に天海として身を変え、家康に仕えるまでの接点にいささか無理を感ぜずにはいられない。 続きを読む

明智光秀/嶋津義忠

下克上、成りあがり。それぞれの意味は若干違うが戦国時代を象徴する言葉だ。農民から天下人となった秀吉に代表されるその表現だが、光秀はどうか。人生の出発点や彼の取巻き等を見ると秀吉よりも恵まれていたようだったが、実力主義の信長の下で頭角を現したと言うだけでも当時の特筆すべき人物だったことは容易に想像できよう。

射撃術に秀で、一軍を率いての戦も上手かった光秀だが、やはり知将としての印象が強い。本書では、光秀が土地々々を治める政治的手腕の見事さが印象的だったが、彼自身、戦よりも治世に身を費やすことを望んでいた節が見受けられる。そういう男が、戦場で指揮を取らなければならなかったところにその時代の不幸があったと言えよう。 続きを読む