「燃えよ剣」、「黒龍の柩」、幕末の新撰組を描いた小説の主人公はいずれも土方歳三だった。しかし、本書の主人公は新撰組局長・近藤勇だ。局長、とは後の肩書きだが、新撰組結成以前は剣術道場・試衛館の主だった。
門弟たちに慕われていたのだろうか、永倉、沖田、土方などが近藤に接する言葉や思いには屈託がなく、また深い親しみを感じる。近藤は朧気ながらも志を立て、やがて新撰組を結成し活躍が認めらた。しかし、近藤が出世しようとも彼らの近藤に対する気持ちは変わらなかったようだ。近藤が身分相応にどれだけ威風を正そうとも、門弟たちはどこか彼を茶化してしまうのだ。その様子がどこか微笑ましい。試衛館時代の「近藤さん」のままでいて欲しかったのだろう。 続きを読む