関東大震災/吉村昭

「地震計の針の大部分は記録紙の外に飛び出し、さらに震動が激化すると同時に破損してしまっていた。」(本文より)

大正12年9月1日、災害当時の地震学教室での1シーンだ。群発地震に脅える市民や、自らの学説を断固譲らない地震学者たちの様子を描くことから始まるこの作品は、緊張感と共に「その時」を読者に予感させる。

相模湾、房総半島勝浦沖を震源地とするこの大震災は、家屋の倒壊、火災、治安の悪化をもたらし、生活環境が著しく低下した。さらには朝鮮人来襲説などが広がり、朝鮮人ばかりでなく、中国人や言動の不審な日本人までもが虐殺された。自警団と呼ばれた集団が虐殺を行ったわけだが、根拠の無い流言に対して過敏に神経質になってしまっていたようだ。本書には、関東大震災がもたらした諸々の災害が事細かに描かれていた。著者の作風上、本書もまた緻密な調査の上に成り立っている作品であることは十分に考えられ、そこに資料的な価値を見出せられる。

また、幕末に起った安政の大地震との比較が述べられていたが、江戸時代のほうが防災に関してより機能的だったと言う点が興味深かった。

読了:2003年9月