ノンフィクション作家・山際淳司。スポーツ好きの方なら一度は聞いたことがある名だろう。本書には、表題作を含むスポーツ選手を題材とした作品8編が収録されている。
華々しくスポットライトを浴びる選手をいかにもスターとして扱うような書き方はしない。私が好いて止まない手法である。代表作、「江夏の21球」などは特にそうだ。読んでいて悔しく、やりきれない気分になる。
他、巨人軍に入団するが後にバッティング・ピッチャーとして生きる男を描いた、「背番号94」、冷めた高校球児を描いた表題作、「スローカーブを、もう一球」、身長のハンデを乗り越えた棒高跳びの選手を描いた、「ポール・ヴォルダー」 、などが印象深かった。文章の所々に、取材をした選手の言葉を引用しているが、選手たちから話を引き出すのは容易なことではなかったはずだ。
著者が彼らに向ける視線は暖かくもあり、また時として冷たく突き放すようにも感じられる。スポーツなんて虚しい。勝ったからと言ってそれが一体どうしたと言うのだ。と、読中はスポーツに対して否定的になってしまうこともあった。タブーな話かもしれないが、もし著者が健在だったなら、今頃一体どんな選手を取材し、それをどんな文章で表現しているのだろう、と考えをめぐらせてしまう。
本編の最後で、著者はヘミングウェイの短篇小説からこんな引用をしている。
「スポーツはすべてのことを、つまり、人生ってやつを教えてくれるんだ。」
読了:2000年 9月