戦国屈指の鉄砲集団、雑賀党。その戦闘力は各地の戦国大名にとって是が非でも味方に付けたい存在だった。その雑賀党を率いるのが本書の主人公、雑賀孫市だ。
ある日、岐阜城下にふらりと現れた主人公。信長の命を受けた秀吉は孫市を味方にせんとあらゆる策を巡らせた。孫市に接近した秀吉だったが、気ままに生きる孫市はなかなか織田家になびいてくれない。ここに秀吉の気苦労を読み取ることが出来る。しかし、交流を重ねる毎に二人の間にはある種の友情が芽生え、そんな二人のやり取りは読んでいて心地よい。
秀吉は孫市が惹かれた数少ない人物のようだが、信長の下で働いていた頃の秀吉を描かせたら、著者の右に出るものはいないのではないだろうか。主役であれ脇役であれ、戦国小説には必ずと言って良いほど秀吉が登場するが、著者が描くその頃の秀吉像は常に魅力的だ。
そして肝心の主人公の見所はやはり正確無比な射撃術にあると言えよう。私はたいていの戦闘描写は適当に読み飛ばしてしまうのだが、本書の場合は小気味良く読めた。そしてもう一つ。孫市は無類の女好きなのだ。女性遍歴を重ねる主人公だが、そこにはカラリとした明るさが感じられる。
読了: 2004年 1月