謎の独裁者・金正日/佐々淳行

近年、拉致疑惑や核開発問題などで人々の関心を集め、軍事的脅威にもなっている北朝鮮。そんな北朝鮮の諜報活動の実態が綴られたノンフィクションだ。

「北朝鮮編」、「KGB編」、「余話」の三部構成になっており、国際スパイ活動を取り締まる外事警察に携わった著者の体験談が話の軸になっている。

第一部、「北朝鮮編」では、テレビのニュース番組などでも取り上げられている事例が数多く見られ、本書ではより専門的に述べられていた。第二部、「KGB編」は本書のタイトルから若干外れるようだが、その内容は興味深い。旧ソ連の諜報活動や秘密警察的な機能を有する巨大な国家機関だったKGBだが、著者の職務と密接に結びついていた部分が多かったようで、彼らとの間に繰り広げられる息詰まる闘いの様子は時にユーモラスでありさえする。著者の実体験や見識が交えられた本書には、スパイ小説を凌ぐ真の迫力を感じた。

そして何よりも気になったのが、日本にはスパイ防止法が無いということだった。ほとんどの国にはその法律が存在し、無期懲役で罰せられる国もあるというが、日本では懲役1年がいいところらしい。自らの生活を犠牲にしてまでようやく逮捕に至っても、挫折感や無力感を繰り返し味わされるというのも納得だ。日本はそんなことで本当にいいのだろうか?
本書の読者の誰もがそう思うであろう。

読了: 2003年10月