ツァラトゥストラはこう言った/ニーチェ

日常生活を営む以上、霞を食って生きているような隠者の思想を全面的に肯定することは出来ない。思想が掲げる理想が非現実的である場合が多いからだ。だが、我慢しながら読み続けると、時として読者がくぎ付けにされるような鋭い思想の断片を見ることが出来る。敬虔な無神論者から生み出された高潔な精神とでも言えば良いのだろうか。俗人に対して手厳しくもあるが総じて面白い読み物だった。

読了: 2003年6月

余談だが、ニーチェの哲学について執筆したアメリカ人に、H.L.メンケン(1880-1956)がいる。「ボルチモアの悪ガキ」とも「賢者」とも称され、アメリカ古典文庫 20 社会的批評では、アメリカ社会に対する辛辣な批判が全編に見受けられる。それを読むと救われた気分になり、また時には行き場を失った気分にもなる。読中に感じるそんな心の浮き沈みが、ニーチェを読んで得られるそれと良く似ているのだ。

そのメンケンによるニーチェについての書籍がThe Philosophy of Friedrich Nietzscheだ。ニーチェの人生を辿りながらその哲学的素養に触れる事が出来るが、タイトルから期待できるほどニーチェの哲学そのものについて書かれているものではない。メンケンらしい毒も感じられないところから勘繰るに、狂人の思想に迫り過ぎずに少し距離を置こうとしたのかもしれない。

   

そんなニーチェだが、名言も数多い。断片的に切り取った言葉はどうしても前後の脈が気になるところだが、下記2冊からはそれでも時としてハッとする一言が散見できる。