儀式/ロバート・B・パーカー/菊地光 訳

私立探偵・スペンサーシリーズ。

富豪の娘が姿を消した。その娘の名はエイプリル。彼女を探し出すのがスペンサーが受けた依頼だった。売春組織に身を置いていたエイプリルだったが、スペンサーの動きを敏感に嗅ぎ取ったその組織は巧みに彼女を隠していた。やがて調査を進めるスペンサーが知った売春組織の意外な事実とは。

シリーズものの悲しさか、時には作品の面白さを理解できずに読み終えてしまうものもあるが、本書が扱うテーマは単なる推理小説の枠を超えていた。事件解決後の物語終盤、問題の娘の将来を巡りある会話が交わされる。その会話の内容には、軽く読み過ごすことが許されないある種の重みを感じた。

恋人のスーザンや相棒のホークなど、スペンサーを取り巻く人々との間で交わされる会話にハードボイルドの醍醐味を感じる。その会話には相手を突き放すような冷酷さがあり、また時にはクールな台詞の中に哀愁めいた響きを帯びている。そして一方では読者が思わずニヤリとしてしまうユーモラスな一面もあるのだ。

読了:2003年 7月

また、続編「海馬を馴らす」でもエイプリルはまたもや行方をくらませてしまう。彼女との接触に成功したスペンサーだったが、エイプリルの閉ざされた心を辛抱強く解きほぐして行くスペンサーの姿が印象的だった。ビジネスとして割り切らず、相手の境遇を親身に思いやってしまうのだ。このあたりは日本の時代小説に見られる人情とどれほどの違いがあろう。そこに、洋の東西を問わずに楽しめる小説の温かさを見ることができよう。