僅か16名で稲葉山城を奪った男。半兵衛を語るうえでの代名詞のような武勇伝だが、実際のからくりはこうだ。
半兵衛の弟は稲葉山城に人質に出されてたが、仮病を装う様に言い渡されていた。見舞と偽って半兵衛たちが入城する口実だ。果たして、いざ半兵衛が入城するや、戦闘を始めた。その際、敵の混乱に乗じて、予め城外に待機させていた数千もの軍勢に大声をあげさせた。大軍が攻めこんで来たと敵に錯覚を起こさせ、一層の混乱を招かせたのだった。城外にいた数千の軍勢によって起された大声が、半兵衛の作戦を後押ししたことには違いないが、「僅か16名で難攻不落の城を落とした竹中半兵衛。」と、その名が広められた。
この逸話からも分るように、敵が思いもよらない作戦を平然とやってのけることが出来たのだ。あらゆる兵法書に通じ、戦の王道を熟知しているからこそ数々の奇策が発案される。
本書に描かれている半兵衛像もやはり、見た目や話しかたなどに凛々しさがなく、いかにも頼りなさそうだ。武将には向いていない、と身内からもその将来を心配されていた様子がよくわかる。が、これも本書に登場する黒田官兵衛の言葉を借りれば、「溢れる才を隠す器」の持ち主である証拠だし、その半兵衛から見た官兵衛は、「聡い部分が剥きだしになっていて心を許す気になれない。(中略)できる男に違いないが、ちと危なっかしい」のだ。また主人である秀吉への感情は、私が抱いていたイメージほどには冷めたものではなく、むしろ好意的な感情を抱いていると思われるくだりが所々に見られた。
読了: 2003年3月