物語の主人公は黒田官兵衛。秀吉の軍師として類稀なる才能を発揮し、さらに秀吉の死後は自ら天下を狙った男の生涯を描いた小説。
織田家の家風に新しい時代の到来を予感した官兵衛。しかし、官兵衛が仕えた小寺氏は未だ中世的な風習に固執していた。己の主人を織田家の傘下に加わらせようと奔走する官兵衛だったが、尽力すればするほど疎んじられた。小寺は信長に否定的だったのだ。
しかし、官兵衛は主人を見限ろうとはしなかった。小寺家のために良かれと思いやったことだが、良く言えば根っからの世話好き、悪く言えばおせっかいが過ぎたのだ。そんな折、荒木村重が織田家に謀叛。小寺家が荒木になびくことを恐れた官兵衛は村重を説得に単身有岡城へ。余程説得に自信があったのだろう。しかし、ここで官兵衛は投獄された。小寺家の策略にはめられたのだ。
孤独な獄中生活で官兵衛は身も心も変わった。湿気の絶えない牢内では身体が日毎に衰えていった。自ら誇っていたはずの知恵のはかなさも痛感した。そんな状況の中で、官兵衛は僅かに咲いた藤の花に勇気付けられたりもした。ドライな日常を送りがちだが、本当の潤いとは、自然現象の些細な変化に感動できるような心の持ち様にあるのではないか。そんなことを思った私だった。この100ページ程度に渡って描かれた獄中生活のくだりは、本書におけるクライマックスの1つだったと言えよう。
読了: 2003年 8月