武揚伝/佐々木譲

幕末維新の政変において旧幕府軍の海軍を率い、薩長率いる新政府軍と最後まで戦い抜いた榎本武揚の人生を描いた小説。

幕臣の家に生まれ育った釜次郎(のちの武揚)は利発で好奇心旺盛な少年だった。彼の父親は測量術と天文学の専門家であり、彼の、地球儀を眺めながらのグローバルな話題は釜次郎を夢中にさせた。釜次郎の後生を形成した大きな要因だった。 続きを読む

小説十八史略/陳舜臣

紀元前、ほとんど資料が残っておらず、伝説として伝えられているような神話的時代から話が始まり、その後の夏、春秋、殷、周、秦、漢(前漢、後漢)魏、呉、蜀の三国時代、晋、隋、唐、モンゴルの台頭から宋の滅亡まで。小説仕立てにされた十八史略が延々と描かれている。

勝者によって若干色付けされた史実にマッタをかけ、真実を追究しようとする著者の姿勢が伺える。例えば、和睦によって一命を取りとめておきながら、その後に勢いが良くなると、後の記録に「相手が降伏した」みたいなことを書いたりする。一見どうでもいいようなことだが、そのへんに勝者の見栄が見え隠れしている。項羽と劉邦の覇権をかけた争いや、三国志、世界帝国を築いたチンギス・ハーンなどは馴染みの方も多いはず。それら英雄が駆け出しの頃の意外なエピソードが興味深い。三国時代の英雄と呼ばれた関羽も、著者にかかれば馬鹿者扱いである。以下、そのへんのくだりを本文より一部紹介。 続きを読む

孫子/海音寺潮五郎

「孫武の巻」と「孫繽の巻」の2部構成になっている。「孫武の巻」では兵法書の著者とされる孫武が登場。呉と楚が争っていた時代だ。呉に仕えた孫武だったが、物語の前半に孫武の兵法家としての見せ場はほとんど無い。それでも、地形や古代の戦争を丹念に研究する姿に来るべき孫武の、あるいは兵法書の活躍を予感させる。

物語の終盤「孫繽の巻」では孫武の子孫、孫繽が登場。「繽」の字は「糸へん」ではなく「月へん」が正しいらしいが、作品中では著者の意向により「繽」となっている。孫繽の家では家法扱いされていた孫武の兵法書だったが、遊び呆けていた孫繽には興味の無い代物だった。書物の研究に真摯に取り組む友人の熱心な勧めにも乗らなかった。それでも、その友人は孫繽が時折見せる才能の片鱗を認めていた。 続きを読む

チンギス・ハーンの一族/陳舜臣

草原の一部族にすぎなかったモンゴルが、やがて世界地図を塗り替えるほどの大帝国を築いた。その中心となったチンギス・ハーン一族の興隆を描いた小説。

一族の長となったテムジン(チンギス)は、やがてハーン(王)となり、隣接する部族を破竹の勢いで統合し、草原を支配する大ハーンとなる。中央アジアに一大勢力を築いたチンギスだったが、後継者が勢力を拡大しすぎたためか、次第に部族内での抗争が頻繁に起こるようになった。 続きを読む

秘本三国志/陳舜臣

黄巾の乱から漢王朝の崩壊、そして三国鼎立時代から晋の建国までを描いた小説。

一言で三国志といっても文献は様々だ。主に曹操を主人公にした「三国正史」。あるいは曹操を悪玉とし、どこまでも劉備を主人公に仕立て上げたがる講談仕立ての「三国志演義」などが代表的だろう。日本では、吉川英治の「三国志」などが有名どころか。 続きを読む