草原の一部族にすぎなかったモンゴルが、やがて世界地図を塗り替えるほどの大帝国を築いた。その中心となったチンギス・ハーン一族の興隆を描いた小説。
一族の長となったテムジン(チンギス)は、やがてハーン(王)となり、隣接する部族を破竹の勢いで統合し、草原を支配する大ハーンとなる。中央アジアに一大勢力を築いたチンギスだったが、後継者が勢力を拡大しすぎたためか、次第に部族内での抗争が頻繁に起こるようになった。
このあたりの関係図は、本書の巻頭に収録されている「チンギス・ハーン一族の略系図」を参照しながら読むと分りやすい。
その争いがもっとも顕著な形となって現われたのが五代皇帝、フビライ・ハーンの代になってからだ。西側に派遣された部隊は次第にイスラム化され、そしてヨーロッパ進出を狙った。一方、フビライ派は次第に漢化され、元号も中国風に「元」と定めた。あくまでモンゴル風でありたい保守派には、それが不満要素のひとつでもあった。
フビライは東方政策の一環として、日本への侵略を試みるが、度重なる失敗。ちなみに日本側の記録では、1274年(文永の役)と1281年(弘安の役)をまとめて「元寇」と呼ぶのが一般的のようだ。
そして、世界中に離散したモンゴル軍は、一大帝国の終焉とともに歴史の舞台から消えようとしていた。
上層部間の駆け引きにおける心の動きや、一兵卒の愚痴に至るまで。歴史小説とは言うものの、本書に描かれている様々な人間模様を読んでいると、その内容はまさに現代そのもののようでもあり、また逆に読者が当時その現場に居合わせたかのような気分にもなる。当然いかなる歴史小説を読んでもそうだが、本書は特にその印象が強かった。著者の筆力が読者にそう思わせるのだろう。「小説十八史略」もまた然り。
読了: 2000年 8月