小説十八史略/陳舜臣

紀元前、ほとんど資料が残っておらず、伝説として伝えられているような神話的時代から話が始まり、その後の夏、春秋、殷、周、秦、漢(前漢、後漢)魏、呉、蜀の三国時代、晋、隋、唐、モンゴルの台頭から宋の滅亡まで。小説仕立てにされた十八史略が延々と描かれている。

勝者によって若干色付けされた史実にマッタをかけ、真実を追究しようとする著者の姿勢が伺える。例えば、和睦によって一命を取りとめておきながら、その後に勢いが良くなると、後の記録に「相手が降伏した」みたいなことを書いたりする。一見どうでもいいようなことだが、そのへんに勝者の見栄が見え隠れしている。項羽と劉邦の覇権をかけた争いや、三国志、世界帝国を築いたチンギス・ハーンなどは馴染みの方も多いはず。それら英雄が駆け出しの頃の意外なエピソードが興味深い。三国時代の英雄と呼ばれた関羽も、著者にかかれば馬鹿者扱いである。以下、そのへんのくだりを本文より一部紹介。

「「—わかりきったことを、いい年をしたひげの将軍が訊く。劉備にすれば、たしかにくたびれることだった。
「ほ、そうでございますか」
ひげの関羽が感心したようにうなずいた。
(なんだ、そのばか面は。…)
劉備は心のなかで悪態をついたが、…」」

読了:2000年 7月