銀むつクライシス -「カネを生む魚」の乱獲と壊れゆく海-/G・ブルース・ネクト

マゼランアイナメと呼ばれるこの魚。日本では「銀むつ」や「メロ」とも呼ばれているようだが、その魚を巡って密漁船と巡視船が闘いを繰り広げるノンフィクション・ノベルだ。

逃亡劇、追跡劇、読者はどちらの立場で読んでも手に汗握る展開を堪能できる。ある程度の事実に基づいた作品のようなので、まさに迫真と言えよう。密漁を肯定する事は出来ないが、逃げるビアルサ号の狡猾さに不快感を抱きながらも、逃げ切った後に得るであろうビッグビジネスを想像すると命がけの彼らに肩入れしたい気分にもなる。 続きを読む

仮釈放/吉村昭

不倫を重ねていた妻を殺害し、その不倫相手に傷を負わせ、さらにその自宅に放火して相手の母親を死に至らしめた主人公が、16年の服役を終え仮釈放された。

服役中、主人公は拘束されない生活を強く望み、少しでも早く出所できるようにと勤勉な生活態度を心掛けていた。果たして、いざ仮釈放が決まり社会生活を始めたが、彼は多くの事に戸惑いを覚えた。16年間に渡る服役生活で身に付いた習慣が抜けきれなかったのだ。 続きを読む

運命の劇場/落合信彦

務めていた会社を辞め、世界を一人歩きする池浦謙二。旅の途中で、海外で活躍するオイルマン・佐伯剛と出会い、佐伯にすすめられるままにオイルビジネスを始めた。

佐伯に従事することにより自らも成長していく池浦謙二。オイルビジネスに命をかけ、ある程度の成功を収めるがやがて暴走。佐伯の助言を聞き入れなくなった池浦は、やがて大規模なアマゾン開発に乗り出し、世界中を敵にまわしてしまった。好青年だったはずの池浦は変わり果て、佐伯の胸には深い悲しみが… 続きを読む

カリナン/春江一也

主人公、柏木雪雄は名門銀行の幹部役員だったが、詐欺横領の罪により刑務所暮らしを余儀なくされた。全てを失った柏木が本当の自分を探すべく出所後に旅に出た。その旅をしていく過程のなかでの人々との出会いを描いた作品。「プラハの春」、「ベルリンの秋」に続く春江一也第3作。

柏木は判決後、独房の中で自分の心と向き合う日々が続いた。そんな日が続くなか、雪雄は幼き日々の記憶を辿っていた。彼が生まれ育った所は1940年当時のフィリピン、ダバオだ。 続きを読む

金正日暗殺指令/落合信彦

サン・フランシスコで射撃場を営む、元米軍傭兵、小暮譲二が、ワイルド・ドラゴンズを率いて再び戦場へと向かった。ターゲットは北朝鮮。作戦のコードネームは、”オペレーション・ターミネーター。”その戦場の描写は、臨場感にあふれていた。

この小説では、北朝鮮を巡る各国の動きが描かれていた。果たしてどこまでが小説でどこまでが真実なのであろうか。真実性と創造性がうまくかみ合った時、作品に迫力がでる。この小説はその典型ではなかろうか。 続きを読む