カリナン/春江一也

主人公、柏木雪雄は名門銀行の幹部役員だったが、詐欺横領の罪により刑務所暮らしを余儀なくされた。全てを失った柏木が本当の自分を探すべく出所後に旅に出た。その旅をしていく過程のなかでの人々との出会いを描いた作品。「プラハの春」、「ベルリンの秋」に続く春江一也第3作。

柏木は判決後、独房の中で自分の心と向き合う日々が続いた。そんな日が続くなか、雪雄は幼き日々の記憶を辿っていた。彼が生まれ育った所は1940年当時のフィリピン、ダバオだ。

彼をダバオに駆り立てたのは当時の記憶、育ての母についての淡い思い出だった。ダバオに到着した雪雄だったが、これといった手がかりを持たなかったため案の定途方にくれてしまう。しかし、雪雄は根気強く母親探しを続けていくことで、様々なことを明らかにしていった。フィリピンの歴史、日本人移民と原住民との関わりやその後、戦時中に日本軍が取った行動、戦後の日本とフィリピンが有する歪んだ関係、多くのストリートチルドレンを抱えるフィリピン社会の実情、そして父親と育ての親についても。物語の結末についてのコメントは控えたいが、本書の読中、読後にはなんとなく癒された気分になった。

余談ながら、著者の前作、前々作において主人公を演じた堀江亮介が、ダバオ駐在官領事として脇役で登場する。ストーリー全体を考えると、話がうまく出来すぎていると感じる所もあったが、堀江領事がうまくストーリーに絡んでいた。

読了: 2002年9月