シルミド/白 東虎/鄭 銀淑 訳

実尾島(シルミド)と呼ばれる韓国の無人島を舞台に繰り広げられる特殊訓練。そこでは金日成の暗殺を目的に殺人的な訓練が行われていた。30kgの荷を背負い6kmを30分で走破、遊撃術、射撃、短剣投げ、水泳やその他の暗記事項。一定の基準に満たない訓練兵は容赦無く折檻された。訓練兵の中から死亡者が出るほどの過酷な訓練だったが、作戦終了後の高待遇や祖国への愛国心が彼らを支えていた。

しかし、作戦はなかなか実行されなかった。指令が出ては取り消され、また出ては取り消され。支給される食事も次第に粗末な物となり、教官たちとの関係も一触即発の険悪ムードとなった。

さらに、南北間の緊張が緩み始めた事で特殊部隊の必要性自体が問われることとなった。これまでの日々に疑問を感じ始めた訓練兵たちは自らの存在を問うべく、シルミドを脱出し大統領府を目指した。

これがシルミド特殊部隊が世に知られることとなった事件のあらましであり、私が本書に期待した内容でもあった。小説化や映画化にあたり、訓練状況や訓練兵脱走後の行動が脚色されているようだが、それらの内容から想像し得る事実も相当過酷なものだったことは間違い無いだろう。

しかし、タイトル通りのシルミドについて描かれた部分は全体の半分以下であり、大半は作者であるペク・トンホの自伝になっている。金庫破りの罪で服役中だった著者を始めとする囚人たちの喜怒哀楽。そんな生活の中で、元シルミド特殊部隊兵と知り合い、彼から聞き知ったその実態に自らの調査結果を加えて発表されたのが本書らしい。

ちなみに映画では著者の自伝の部分が無く、それだけに緊張の連続だった。また、シルミドを脱出するあたりからエンディングまでが観ていて切ない。鑑賞後は重く沈んだ気持がしばらく続いた。

読了:2004年 10月