銀むつクライシス -「カネを生む魚」の乱獲と壊れゆく海-/G・ブルース・ネクト

マゼランアイナメと呼ばれるこの魚。日本では「銀むつ」や「メロ」とも呼ばれているようだが、その魚を巡って密漁船と巡視船が闘いを繰り広げるノンフィクション・ノベルだ。

逃亡劇、追跡劇、読者はどちらの立場で読んでも手に汗握る展開を堪能できる。ある程度の事実に基づいた作品のようなので、まさに迫真と言えよう。密漁を肯定する事は出来ないが、逃げるビアルサ号の狡猾さに不快感を抱きながらも、逃げ切った後に得るであろうビッグビジネスを想像すると命がけの彼らに肩入れしたい気分にもなる。

一方で、それを許さないもう1人の自分が居ることにも気付く。巡視船・サザンポーター号の乗組員の果敢な追跡劇にも気持ちが入るのだ。

最終的な決着は法廷に持ち込まれるのだが、本書の読みどころは海洋の追跡劇のみでは終わらない。

この食材は主にアメリカ市場に持ち込まれたようだが、適度に脂の乗った淡白な身はどんな料理にでも合うと、各地のレストランで人気の食材となった。そのレシピから味覚を想像すると何とも贅沢な気分になれるのだ。

この銀むつ、個人的にはそれほど馴染みのある魚ではないが、他の身近な魚がいつどんなきっかけで生態系が脅かされるほど乱獲されるかわからない。獲りたくなるのも欲ならば、食べたくなるのもまた欲。双方が適度に満たされるためには節度が必要だろうが、それを保つのは極めて難しそうだ。ついそんな事を考えながら読んでしまう作品だった。

読了:2009年 12月