シルミド/白 東虎/鄭 銀淑 訳

実尾島(シルミド)と呼ばれる韓国の無人島を舞台に繰り広げられる特殊訓練。そこでは金日成の暗殺を目的に殺人的な訓練が行われていた。30kgの荷を背負い6kmを30分で走破、遊撃術、射撃、短剣投げ、水泳やその他の暗記事項。一定の基準に満たない訓練兵は容赦無く折檻された。訓練兵の中から死亡者が出るほどの過酷な訓練だったが、作戦終了後の高待遇や祖国への愛国心が彼らを支えていた。

しかし、作戦はなかなか実行されなかった。指令が出ては取り消され、また出ては取り消され。支給される食事も次第に粗末な物となり、教官たちとの関係も一触即発の険悪ムードとなった。 続きを読む

戦場にかける橋/ピエール・ブール/関口英男 訳

第二次世界大戦、日本軍はクワイ河への架橋と隣国同士を結ぶ長距離鉄道を敷設すべく英軍捕虜たちを酷使していた。英軍捕虜に架橋を強要する日本軍と、工事の遅延や橋の爆破を目論む英軍捕虜たちとの対立、というのが本書の大筋だ。

架橋と鉄道敷設、いずれの工事に関しても日本軍と英軍捕虜たちはその方法を巡って激しく対立していた。工事方法に対してより科学的な手段をとろうとする英軍捕虜たちに対し、ヒステリックに無茶な労働を強要したのが日本軍だった。 続きを読む

騙し人/落合信彦

チェチェンの活動家がミサイル発射を企てた。ターゲットは日本。ところが、ロシア政府から対応依頼を受けた日本政府には打つ手が見つからない。そこで白羽の矢が立ったのは抜群に頭の切れる4人の詐欺師たちだった。政府の密命を受けた彼らがチェチェンに乗りこんだ。と、こんな感じで話がすすんでゆく。

今までの著者の作品から考えて、ニヒルな笑いを誘うようなジョークを期待していたのだが、本書にそれはなく、むしろ思わず吹き出してしまうような笑いが多かった。 続きを読む

富めるもの貧しきもの/アーウィン・ショー/大橋吉之輔 訳

終戦直後のアメリカ。混乱する社会の中で生きるジョーダーシュ一家のそれぞれの人生を描いた小説。

ドイツ系移民のアクセル・ジョーダーシュはニューヨーク近郊でパン屋を営んでいた。すべてに投げやりな妻・メアリーと器量ある長女・グレーチェン、成績優秀で両親の期待を一身に背負う長男・ルードルフ、そして町でケンカに明け暮れる次男のトマス。家族中の誰もが自分の家庭に何かしらの不満を持っていた。 続きを読む

名もなき勇者たちへ/落合信彦

主人公はイスラエルの情報機関(モサド)で活躍する女性エージェントだ。刺客として訓練を受けた彼女は世界中の大物をターゲットに駆け回る。本書で見られるモサドの訓練は、先頃読んだ「シルミド」を思い起こさせる。しかし、小説「シルミド」との違いは、訓練兵と教官との間に人としての情が見られたことだろう。

任務を重ねていく過程ではCIAやFBI、さらにはニューヨーク・タイムズの記者などが登場し、白熱の諜報活動が見られる。このあたりの緊張感は、著者のファンならばお馴染みだろう。さらに、聞き覚えのある中東の過激派グループやその指導者たちが登場することで、物語に現実感が沸き起こり、事の成り行きから目が離せなくなる。 続きを読む