富めるもの貧しきもの/アーウィン・ショー/大橋吉之輔 訳

終戦直後のアメリカ。混乱する社会の中で生きるジョーダーシュ一家のそれぞれの人生を描いた小説。

ドイツ系移民のアクセル・ジョーダーシュはニューヨーク近郊でパン屋を営んでいた。すべてに投げやりな妻・メアリーと器量ある長女・グレーチェン、成績優秀で両親の期待を一身に背負う長男・ルードルフ、そして町でケンカに明け暮れる次男のトマス。家族中の誰もが自分の家庭に何かしらの不満を持っていた。

父アクセルの死後、長女グレーチェンは気ままな性生活に生き男性遍歴を重ね、長男ルードルフは大学卒業後近所のスーパーに勤め、次第に経営手腕を発揮し、やがて金と名誉を手に入れた。そして町を追い出されたかたちで家を出た次男トマスはプロボクサー、船乗り、と人生が二転、三転していった。

三者三様、彼らが歩む人生はみな極端だ。誰が正しい、誰が悪い、どんな人生が幸せでどんな人生が不幸だ、とは簡単には言い切れないものだ。読中・読後にしみじみと抱いた感想である。しかし、愛情や憎しみ、家族だからこそ抱く彼らの感情がいかにも人間的で、そんな登場人物たちから目が離せなかった。やがて3人はそれぞれの家庭を持ち、お互いの人生に理解を示し、ようやく家族らしくまとまり始めたかのように思えたが、そのままハッピーエンドになるような都合の良い小説ではなかった。

読了: 2001年 2月

また、続編の「乞うもの盗むもの(上・下)」も必読あれ。トマスの息子が登場します。著者は短篇の名手として知られているようだが、短篇でも上記の長編2作品に見られる良さが出ているのだろうか。長編は充分に面白いと思うのだが、時間があったら短篇も読んでみようと思う。