イスラーム文化/井筒俊彦

イスラム社会は正統派といわれるアラブのスンニー派と、表面的な言語表現からさらに内的意味を探ろうとするイラン人を代表とするシーア派の二つに大別され、さらに各派のなかにも支流がある。

彼らの生活は聖典「コーラン」に基いており、巡礼に関する規則や日常生活の細部に至るまで、実にきめ細やかに規制されている。「コーラン」には神の言葉が記録されているといわれる。神の啓示を受けた預言者ムハンマドが、大体西暦610頃から20年間かけて編纂した。この20年間を二分し、前期10年をメッカ期、後期10年をメディナ期と呼んでいる。

この「コーラン」というのが厄介な聖典で、解釈の仕方、解釈者によって同じ文章でも随分と違った意味に解釈されてしまうらしい。どんな行為でも解釈のやりかた次第で正当化されてしまう危険性があるわけだ。もちろん、誰でも好きなように解釈が許されているわけではなく、特別な資質を持った者だけが解釈を許されているらしいのだが。

それでもなお、解釈を巡った激しい争いが生じ、西暦九世紀頃には法律に関する解釈が禁止された。しかし、法律以外の内容については解釈が続けられているらしい。それが、ほぼ暗号解読に近いといわれるシーア派の解釈学的世界の深さになり、またスンニー派世界の広さとなることでイスラム文化社会を形成しているのであろう。

読了: 2002年9月