日露戦争において、ヨーロッパを舞台に諜報活動を行った情報参謀、明石元二郎の生涯を描いた小説。
幼いころの元二郎はいたずら好きなやんちゃ坊主だったようだ。身なりもだらしが無く一見ずぼらだが、頭脳が抜群に良かった。「孫子の兵法」を特に好んで読んでいたようだ。士官学校、陸軍大学を優秀な成績で卒業した元二郎は、参謀本部付を命じられた。
ロシア公使館勤務を命じられた後は、諜報活動を展開。各国の外交官、駐在員が集まるパーティーに出席する、各国の新聞に目を通すなどして情報収集を怠らない。さらに、数名のロシア人スパイを雇い、機密情報を入手。また、ロシアの周辺諸国や国内の反政府組織の指導者たちとコンタクトを取り、打倒帝政ロシアと銘打って革命意識を煽り、ロシア政府を攪乱させた。ロシアは対日の戦争のみならず、国内の治安にも力を注がなければならない状況に陥り、次第に疲弊していった。
一方、戦場では日本軍が各局面で印象的な勝利を収め、ロシアは米国が仲介した日本との講和を受け入れることとなった。長期戦では勝ち目が無かった日本だったが、計画通りの短期決戦で勝利を収めたのだ。明石の諜報活動が、早期終戦をもたらす大きな要因でもあった。彼が収集した情報が戦局を左右したことは言うまでもなく、彼一人の働きが、一師団以上の価値があったと評価された。
諜報活動の結果、元二郎はロシア政府の在り方に異を唱える反政府組織に加担した形となった。しかし、物語の終盤で彼は韓国併合に携わった。これは当時のロシアが近隣諸国にとっていた政策と同じ性質のものだった。任務だったとは言え、逆の立場に立ってしまった元二郎が残念に思えてならなかった。
読了: 2003年 4月