プリズンの満月/吉村昭

終戦直後、米軍監視の下で刑務官を努めていた人物の眼を通して当時の戦犯収容所の様子がつぶさに描かれている作品。

定年退職後の主人公が刑務官時代を回想するところから物語が始まる。当時の不安定な社会情勢のなか、各地の刑務所で見られる受刑者たちの荒れた様子が心苦しい。

熊本刑務所から巣鴨プリズンへの転勤が命じられてからの展開が作品の大半を占めているが、そこでの様子が興味深い。

米軍の指示は絶対だが、同じ日本人たちを監視しなければならない立場である事の難しさ。戦犯たちからも敵意の眼を向けられる板ばさみの生活とはいかなるものか。神経がささくれ立った彼らに相対する主人公の張りつめた勤務状況が、読者の神経をも疲弊させる。

やがて講和条約が発効され、日本側への正式移管が決まったあたりから規則が幾分緩やかになる。それに伴い作品の緊張感もゆるくなるのだが、そこで改めて別の問題に気付かされる。

「戦犯」という言葉の意味だ。

敗戦国が一方的に裁かれてしまうようだが、平和に対する罪という点では戦勝国も同じであろう。作中、日本人の刑務官が戦犯たちを「受刑者」と呼ぶことに抵抗を覚えた件があるが、なるほどそうかも知れない。

ちなみに、作中の出来事は事実らしいが、主人公は著者の創作らしい。

読了: 2010年5月