麒麟 橋本左内/岳真也

列強の脅威が迫る幕末において開国運動に奔走するが、後に政治犯として処刑され弱冠26歳の若さでその人生を終えた橋本左内の生涯を描いた小説。

医家に生まれた左内はやがて緒方洪庵が開く適塾に入り、そこで蘭語と医学を学んだ。彼は秀才揃いの塾内でもめきめきと頭角をあらわし、将来の名医として期待されるが、やがて政治運動に傾倒し始め、開国派として活動した。

左内は先見の明がある一橋慶喜を将軍候補として担ぎだしたが、開国を説きながらも同じく開国派の井伊大老に処刑されてしまった。なぜか。至極簡単に言ってしまえば、慶福を将軍候補として擁立する紀州派の井伊大老は慶喜を擁立する水戸派を一掃したかったからだろう。慶喜を担ぐ左内が水戸派の人間であると思われたのだろうか。

左内の卓越した個人プレーも、井伊直弼が作り上げた組織力にはかなわなかったようだ。両者が共に抱いた国家的な志が同じだっただけに、読んでいて残念でならなかった。

「とにかく、自分は走ってきた。これまで、ほとんど一時たりとも休まずに、ひたすら奔り、走り続けた。そのあげくに掴んだものは、いったい、なんだったというのだろう。・・・

左内は自分の頬が濡れているのに気づいた。」本文より。

読了:2001年 1月