森乱丸/八尋舜右

信長の小姓として仕え、やがて本能寺で信長と共に生涯の幕を閉じるまでが描かれている。

乱丸はその才知と美貌ゆえに信長からの寵愛を受け、やがて五万石の大名にまで出世する。しかし、癇の強い信長の側近として仕えた乱丸の心労はいかなるものだったのだろう。小姓同士の嫉妬もあっただろう。信長の小姓ということで、武将たちからの白々しいお世辞もあっただろう。乱丸はしかし、信長を取り巻く人々を注意深く観察することで、人間を見る眼を磨いてゆく。

「人とはふしぎなものだ。いかにうわべを飾り、とりつくろおうとも、その顔容、表情、音声に接しながら三言、四言、ことばをかわせば、乱丸のような少年にもその本性が透けてみえてくる。」本文より。

著者はあえて “乱” の字を選んだようだ。”乱”の字が正しいと言う説もあるが。そして物語の最後には、天下の盗人・石川五右衛門がチョイ役で登場。「誇りで飯は食えぬ」、と不敵な笑いを浮かべて去ってゆく。

読了:1998年 4月