信長、秀吉、家康。天下に名を馳せた各武将の世の中を渡り歩き、類希な経営、治世手腕を発揮した武将、金森長近の生涯を描いた小説。
長近が織田家に出仕したときの主は信秀(信長の父)だ。長近は、当時まだ幼かった信長と共に時を過ごし、信長が成人する頃には彼の側近として相談役を務め、信頼を得るようになっていた。
信長の死後、次の天下人になり得る人物を冷静に見極め、秀吉に仕えたが、この時代の長近はまさに寝る間もないほどに働いた。が、天下掌握後の秀吉は、淀君にそそのかされ知的な判断ができる状態ではなかった。建造物に莫大な費用を費やし、経済が疲弊したところでの朝鮮出兵など。国内の不満は高まる一方だった。なんとか平和な世の中が作れないものか?秀吉の政治に限界を感じた長近は、徳川家康を次の天下人と睨み彼に接近した。
家康は幼少の人質時代に長近から随分と情けをかけてもらったことがあったらしく、二人はお互いの意見を尊重し会えるような絆を容易に築き上げていったようだ。長近は関ヶ原の合戦後まで生き延び、85歳でその生涯を終えた。
長近は立身出世を熱望することは無かった。その無欲さが、逆に時世を冷静に見極める目を育んだと言っても良いだろう。これまで、戦国小説はそれなりに読んできたつもりだったが、その中では長近の活躍はおろか、時々名前が出てくる程度で、少なくとも私の印象に残っている武将ではなかった。
そんな彼が残した功績とは何か。彼が存命中に築き上げた城下町として良く知られているのが、飛騨高山。さほどの規模ではないが、美しく整備の行き届いた町らしく、後世において「心のふるさと」と呼ばれているようだ。その他、越前大野を繁栄させるなど、戦場の最前線で矛を振るうことはほとんど無かったようだったが、典型的な文官タイプの仕事を成功させた。
読了: 2003年1月