戦乱の世に生まれ、武家育ちでありながらもやがて仏門に帰依した天海大僧正を描いた小説。
兵太郎(後の天海)の父は戦乱の世の在り方に疑問を抱いていた。血を流さずとも人と人が分かり合う方法があるはずだ、と。彼は仏の道に答えを見出そうとした。そんな父を幼い頃から見てきた兵太郎は、父と同じ思いを抱くようになった。武家に生まれ家督相続の義務を背負った兵太郎だったが、父の死後、悩みに悩んで出家を決意した。
その後、随風と名を変え各地を行脚するが、そこで随風が見たものは、欲を貪る堕落しきった僧兵たちの姿だった。しかし、それでもめげずに修業に励んだが、今度は俗世の誘惑が随風を悩ませた。
やがて様々な葛藤に打ち勝った随風は天海と名を改め川越、比叡山南光坊と移り住んだ。彼は次第に高名になり、天下人家康の居城に呼ばれた。家康は欲を持たず本音で話をする天海を気に入った。権力を手に入れた家康だったが、本心を語れる心の相談役が必要だったのだ。
その後、秀忠、家光の代まで生き、百八歳でその生涯の幕を閉じたが、政治に関与することはほとんど無かったようだった。それは私が想像していたよりもずっと正直で純粋な生き様だった。
しかし、本書における天海像とは若干異なり、実際は徳川幕府の参謀だったのだろう。
読了: 2002年02月
写真は上野寛永寺の開山堂。
慈惠大師良源とともに慈眼大師・天海大僧正が祀られている。
同じく寛永寺、天海僧正毛髪塔。
栃木県日光市にある天海像。