吉良の言い分/岳真也

松の廊下事件や吉良邸討入りなど、憎まれっ放しの吉良上野介だが、本書の主役はその悪役とされる吉良上野介だ。タイトルから想像するほど吉良を弁護しているわけではないが、敵対関係となってしまった赤穂藩との感情のすれ違いが読者に伝わって来る。

勅使・院使を接待する「御馳走人」を任された赤穂藩領主・浅野長矩。その浅野に饗応の礼儀作法を教えるのが吉良の役目だった。吉良は浅野に恥をかかせまいと最大限の配慮を施したが、浅野に吉良の善意は伝わらず、逆に浅野は吉良に対して怨恨を募らせた。

これには浅野が有する心身の脆さが原因と思われるが、そればかりが諸々の事件の引鉄となったわけではない。吉良と赤穂藩、あわよくば吉良家と縁の深い上杉家までを取り潰さんと策を練るある人物の謀略があった。

柳沢保明。この作品の黒幕だ。本書のサブタイトルに「真説・忠臣蔵」とあるが、その真説とは吉良の好意を取り違えた浅野の人格を問うものでは無く、赤穂浪士の討入りによって悪役となってしまった吉良を善人として世に訴えるものでもなく、事件の一部始終が柳沢によって描かれたシナリオ通りであった事を示唆するものだったのかもしれない。

読了: 2005年4月