坂の上の雲/司馬遼太郎

主役は維新後の明治を駆け抜けた3人。

近代短歌・俳句を確立させた歌人正岡子規と秋山兄弟。日露戦争においてコサック騎兵団を破った兄の好古と、バルチック艦隊を破り日本艦隊を勝利に導いた弟の真之。また、二百三高地を巡る日露の攻防も必読あれ。

先進国に1分1秒でも早く追いつこうと努力を重ね続ける明治日本。そんな時代に生きる彼らは眩しく輝いている。そしてそんな彼らが作り上げた国家に生きていることを誇りに思いたくなる。本書はそんな作品である。決して戦争行為を美談化しているのではない。しかし、登場人物たちが必死に努力する姿が美しいのだ。

以下、それぞれの見せ場を少しだけ紹介。

***** 秋山好古 *****
日清・日露戦争で騎兵を指揮する兄・好古。騎兵とは何かを考え歴史を紐解くが、過去において騎兵を有効に用いて軍を勝利に導いた例は極めて少ないことがわかった。源義経と織田信長がそれぞれ一度づつ成功させただけである。外国ではジンギスカンとナポレオン。いわゆる軍事的天才にのみ運用が可能なのである。日露戦争では、好古が騎兵を用いて敵情を探ることに成功した。本部に情報を送るが、肝心の本部がその情報の価値をわかっていない。戦後、ロシア側の資料が公開された時に初めて好古の情報の正確性がわかったという。

***** 秋山真之 *****
九つ年上の兄・好古とは性格の異なる海軍に所属し、参謀として活躍する。彼の頭の中には常に海図が浮かんでいた。仰向けになって天井を見た時、彼の目に映っていたのは天井ではなく極めて正確な海図であった。それは最も印象に残ったシーンだった。のちにバルチック艦隊を破り、日本海軍の名を世界に轟かせた。

しかし、真之は余程の変人だったらしく、しばしば周囲を困惑させたようだ。

***** 二百三高地 *****
旅順港に碇泊するロシア艦隊を陸から撃沈すべく二百三高地を狙う日本軍。指揮官・乃木希典と参謀の伊地知は無謀な作戦を繰り返し、多くの日本兵が命を落とした。多分に隠喩を含んだ詩的な乃木の報告は明確さを欠き本部を困惑させた。痺れを切らせた児玉源太郎は軍法違反を覚悟で現地へ向かい臨時に指揮を取る。作戦の変更が効を奏し僅か1日足らずで二百三高地を攻略。これを機に戦局が変わった。

その他、欧州で工作活動を展開した明石元ニ郎の活躍も見逃せない。

読了:1999年 1月