著者が外交官時代に接した日本やロシアの権力者たち。著者だからこそ知りえたであろう彼らの意外な一面を知る事が出来る人物評集だ。
橋本龍太郎、小渕恵三、森喜朗等、歴代総理について章が割かれているが、彼らの「正」のイメージを垣間見る事が出来る。テレビ等で槍玉に挙げられ、常に「負」のイメージを植えつけられている我々には想像し難い彼らの側面(あるいは素顔)だ。(本書でも良い事ばかりを書いているわけではいないが。)
例えば、橋本元首相は北方領土交渉を加速させ、当時のエリツィン大統領から高い評価を得ていた事、小渕氏が情報感覚に優れていた事、森氏は自己保身よりも政治的な判断を優先させた一面があったこと等だ。
ロシア側ではエリツィンやプーチンが印象的だ。
エリツィンはサウナを好んでいたようだが、文化なのか、彼個人の性癖なのか、そこでの振る舞いは日本人にはかなりの抵抗を感じる。苦笑いしながら辟易してしまった。そこでのコミュニケーションが重要なわけだが、たとえ関係を築くためとはいえ、自分の立場を守っていくのはさぞや大変であろうと感じた。サウナも重要な仕事場なのだ。
「死神」と称されるプーチン評は興味深い。あの冷徹な無表情はKGB出身者ならではらしいのだが、ほんの一瞬だけ人間としての表情も見せる。その一瞬を、著者はよく見ている。それは仮面を脱いだ瞬間なのかもしれないが、あるいは別の仮面を見せただけなのかも知れない。このプーチンを介してロシアの様々な政治局面が論じられているが、そこからは現場の息吹までもが聞こえてきそうだ。ロシア通の著者ならではの見聞・分析であろう。
著者がもっとも高い評価をしているように感じたのが鈴木宗男氏だ。政治の表舞台から失脚してしまった印象だが、領土問題等かつての対露交渉では特に国益に適った貢献度が高かったようで、そういう過程で著者が重用されてきたのであればお互いの絆は強く結ばれているだろう。実際に、著者の作品を通じて鈴木氏への見方が良い方向に変わったような気がする。
読了:2011年6月