凶作続きで百姓一揆や打ちこわしが各地で相次いだ天保年間。物語の舞台である薩摩藩は比較的恵まれていたものの、農民たちの離散が続いていた。その対策として水路開削などの開墾策を立案・成功させたのが本書の主人公・源昌坊だ。
様々なハードルを乗り越え工事を成功させていく源昌坊らの様子を見ていると、達成感を味わうことが出来る。しかし、それだけで終わる小説ではない。この主人公、少々女癖が悪いのだ。小説に華を添えるロマンスと言えるものかどうか。あちこちで娘たちを夜這いする事を否定するつもりはないが、人妻にも手を出してしまうのだ。不倫。もう見境がない。
源昌坊の立場は郷士だが、相手の夫は郷士頭だ。お互い良く知っている。夫や子供には悪いと知りながらも源昌坊を拒めずに悩み、苦しむ。苦しいが、止められないのだ。しかし、やがて事が発覚。源昌坊と同じ郷士の福崎乗之助が二人の関係に勘付き、郷士頭にそれとなく伝えたのだ。この福崎、源昌坊の事業計画に反対し、もし成功したらひょうたんで腹を切るとまで言った男だ。その二人の仲が良いわけが無い。
物語の終盤、源昌坊は策を巡らせ福崎を切腹に追い込んでしまうのだが、結末の後味の悪さが長く尾を引いた。
読了: 2005年 秋